住人主導の管理でブラッシュアップ 目指すは100年マンション!

ワコー王子マンションの外観

物件名:
ワコー王子マンション
所在地:
東京都 北区
竣工年:
1979年
総戸数:
173戸

竣工10年でスタートした住人主体の管理体制

鉄筋コンクリート造のマンションの寿命は100年以上と言われている。ただし、それは修繕など適切な管理がなされていることが大前提。では、「適切な管理」とはどのようなものだろうか。

その答えを示すのが東京都北区の「ワコー王子マンション」だ。竣工したのは1979年。今年でちょうど40年を迎えた昭和時代の物件である。

このマンションの大きな特長は、徹底した住人主導の管理体制にある。
修繕については、有志で構成された修繕委員会が管理組合の理事会と連携。ホームドクターさながらに構造や設備の劣化を洗い出しては、修理・改修にあたっている。今でこそ住人主導の管理体制を敷くマンションは少なくないが、その体制を長年に渡って継続している事例は珍しいだろう。

転機となったのは、竣工10年目。修繕を必要とする箇所が増えてきたことがきっかけだったと修繕委員の一人が振り返る。

「それまではすべて管理会社任せ。大規模修繕も管理会社主導で行われました。そのときに修繕の費用が高すぎるのではないかという疑問が持ち上がり、自分たちの目でしっかり見なければいけないという意識が生まれたんです」

毎月1回の理事会だけでは修繕などの諸問題に対応できないため、理事長を中心とした“五役会”が立ち上がり、後に修繕委員会へと発展した。管理体制も抜本的に見直しがされて、現在は会計・事務などの管理と、建物の修理・保全にあたる管理は、それぞれ意に沿う管理会社に個別に委託しているそうだ。

ワコー王子マンションの外観

明治通り沿いの建物は地上11階建て。2年前の大規模修繕では外壁の塗装も一新。住人アンケートで竣工時と同じ白と茶色が選ばれた

ワコー王子マンションのエントランス

歴史を刻んだエントランス。管理組合によって防犯カメラも設置された

3住戸を買い上げて耐震補強工事を完遂

精力的な活動のなかでも、最も象徴的なのが2年前に実施した耐震補強工事だろう。建築基準法に新耐震基準が導入されたのは1981年。それ以前に建てられたこのマンションは基準を満たしておらず、耐震補強の必要に迫られていた。

「耐震工事になかなか着手できなかったのは、構造図面が残っていなかったため。そこで、NTTのアンテナを屋上に設置するのを機に、一級建築士に構造を調べてもらったところ、6階と7階の2住戸の壁や柱を補強すれば新耐震基準がクリアできることが分かったんです。でも、それをすると部屋が狭くなってしまい、住んでいる人は納得しないでしょう。だったら、それらの住戸を管理組合で買い上げて工事をすることにしたんです」(理事長)

該当する1つの住戸はちょうど売却予定だったが、もう1住戸はマンション内の別住戸を購入して移転してもらうことにした。つまり、管理組合で3住戸を買い上げて工事を完遂したのである。
耐震性を高めるには、窓やバルコニーの外側に筋交いのような鉄骨を入れる工法もあり、住みながら工事ができることからマンションでは採用されるケースが多い。それを選ばなかったのは、建物の美観を保つため。見た目の美しさはマンションの価値を左右するからだ。

ちなみに、買い上げた住戸のうち1つは賃貸に出し、もう1つは集会室として活用している。住人が集まれる共用施設がなかったため、一石二鳥だったそうだ。

ほかにも、各住戸の電気の分電盤を新しいものに入れ替えたり、窓は二重サッシに変更したりと、建物は常にブラッシュアップされている。その場合の費用はすべて組合費から出し、住人に負担がないよう配慮された。現在もオートロックと宅配ボックスの設置を検討するなど、安全性とともに居住性も高められているのである。

理事会や委員会が開催される集会室

耐震補強工事で買い上げた住戸は集会室に。理事会や委員会はここで開かれている

ワコー王子マンションのエントランスにある掲示板

エントランスの掲示板も住人の目に留まるように工夫。オートロックと宅配ボックスの設置が検討されている

これらの活動を支えているのは、言うまでもなく管理組合の資金力だ。

聞けば、竣工当初の管理費と修繕積立金は一般よりも低く設定され、将来を見据えると非常に心もとない状況だったという。

そこで、竣工から数年後に住人たち自らが管理費と修繕積立金を段階的に適正価格まで引き上げることを発案。一方で、修繕工事一つ一つを入札方式にするなどして支出についても大幅に削減したことで、組合の活動費に余裕を生み出すことができた。耐震補強工事も大規模修繕も一時金の徴収や金融機関からの借入を一切することなく行えたのは、まさしく住人たちの英断の賜物なのである。ちなみに、現状の資金は、年間3000万円を修繕費にまわせるほど磐石。これほどの安心感はないだろう。

住人の理解・協力で管理もスムーズに

防災に対する意識もまた高い。修繕と同様に、有志による防災委員会を設置して、防災マニュアルを作成して全住戸に配布をした。さらに、各世帯の人数や年齢などを把握するための住人マップも用意されている。災害時に、どこにどんな人が住んでいるかがわからなければ救出に行けないためだが、その作成にあたって行ったアンケート調査は100%に近い回収率だった。

また、毎年夏には屋上清掃、秋には草取りが住人同士の交流の場を兼ねて行われるが、例年30名前後の参加者があるという。理事会や委員会の活動を理解し、協力しようという住人の多さの表れといえるだろう。

ワコー王子マンションのルールブック

各住戸に配布された生活ルールブックはファイル形式に。防災マニュアルもここにファイルできるようになっている

ワコー王子マンションの駐車場・駐輪場

1階部分には駐車場と駐輪場を設置。照明はすべてLEDに切り替えられている

こうした管理体制の強化を長年にわたって支援しているマンション管理士の武居知行氏(メルすみごこち事務所) は、「管理のプロから見ても、このマンションの取り組みは目を見張るものがあります」と高く評価する。当然のことながら、行き届いた管理は価値にも結びつき、中古価格は下がるどころか、むしろ上昇傾向にあるそうだ。

今後の課題は、新たに入居してきた若い世代にも積極的に管理組合の活動に参加してもらうこと。それが実現できれば、100年マンションも夢ではないはずだ。

構成・取材・文/上島寿子 撮影/浜田啓子

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