50年目の「桜」を核に。街のコミュニティハブを目指す

桜が美しい、桜台ビレジの外観

物件名:
桜台ビレジ(旧称:東急ドエル桜台ビレジ)
所在地:
神奈川県 横浜市
竣工年:
1969年
総戸数:
124戸

桜と共に半世紀を歩んだヴィンテージ・マンション

日本各地には、建築を志す学生や建築ファンなら、一度は現物を見ておきたい“建築遺産”とでもいうべき建物が点在している。美術館、オフィスビル、学校、図書館、駅舎などさまざまな種類があるなか、集合住宅も一定の割合を占めている。

ここで紹介するマンション「桜台ビレジ(旧称:東急ドエル桜台ビレジ)」もそのひとつだ。

設計は、世田谷美術館、衆議院議長公邸などを手掛け、日本建築史を代表する建築家の一人である内井昭蔵。今も時折り、見学に来たとおぼしき人が見られるという。

“人間と建築が馴染む空間づくり”を目指した内井氏の思想を反映しているのが、南西向き傾斜地に4つの住宅棟を配したランドプラン。中庭には地名にちなんだ30本の桜やシャガ、ツツジ、サツキなどが植えられている。

竣工時から暮らす住人のひとりに聞くと「中庭の植栽はマンションの「顔」だけに、メンテナンスには力を入れています。完成からほぼ半世紀が経ち、桜の高木化や伸び過ぎた枝が問題になったため、数年前に剪定して木々の根元にまんべんなく日が当たるようにしました。これでまた植栽が健やかに成長するようになりました」と教えてくれた。

竣工から今年でちょうど半世紀。50回目の桜が花を咲かせる。

白い外壁が美しい桜台ビレジ

雁行型のモダニズム建築

レトロなイラストが味がある、桜台ビレジの竣工記念パンフレット

ヴィンテージ感漂う竣工記念パンフレット

地元の「春限定コミュニティセンター」としての役割も

早春の時期になると、桜台ビレジがある横浜市青葉区桜台エリアでは、最寄りの青葉台駅から続く通りに見事な桜並木があり「さくらまつり」が開かれている。ただし、始まったのは2016年と案外最近だ。

地元の桜台商店会副会長であり、マンション1階でアート&クラフトショップを営む田原 雅さんがその理由を説明してくれた。「そういった催しがこれまでなかった、最も大きな要因は、多くの人が集まれるような広場がなかったことでした。そこで桜台ビレジの1階店舗前のコリドーを利用しては、という話がもちあがったのです」

そして、田原さんを含む商店会の役員たちが奔走し、さくらまつりが実現した。

「フリーマーケットや屋台、ミニコンサート、地元在住のプロ棋士にお願いして『多面指し』などのイベントを開催しました。非常に好評で、以降、桜台商店会の『さくらまつり』として継続しています」

長なわとびをする子どもたち

2018年のさくらまつりにて。階段広場前のなわとびは子どもに大人気

プロ棋士と多面差しをする人々

地元在住のプロ棋士1人が、順番に複数の対戦相手と対決する「多面差し」も盛り上がった

さくらまつりの屋台

マンション前のバス通りに面したマンションのコリドーを活用して屋台を設置

これまでのまつりでは、マンション住人はもちろん、近隣の老若男女問わず、さまざまな住民が訪れて大盛況だという。お花見の季節に限って、マンションが地元のコミュニティセンターになるというのも素敵な話だ。

桜台さくらまつり2018のポスター

2018年のさくらまつりポスター

新たな魅力づくりのために「ヨコハマ市民まち普請事業」に参加

もうひとつ、このマンションの特徴を表すエピソードして紹介したいのが、2018年8月に「ヨコハマ市民まち普請事業」にプレゼン参加したことだ。

この事業は、横浜市民が自ら地域の特性を生かした身近な生活環境の整備を考え、つくりあげるための横浜市独自の助成事業。2回の公開コンテストで選考された提案に対して、横浜市が次年度に最大500万円の整備助成金を交付する。前述の田原さんは、マンションに居住、起業しているクリエイターたちと共に「桜台ビレジピープル」を結成。「坐れるまち まちの止まり木」と題した企画を立案し、整備助成金を獲得すべくプレゼンに挑んだ。

坐れるまち「まちの止まり木プロジェクト」展開イメージ

「マンション前のバスが走る通りに面した植え込み部分を活用して、誰でも坐れるベンチを設置し、そこに加えて既存のトイレを再整備。老若男女さまざまな人に休憩してもらう場所にして顔見知りの輪を広げていただくプロジェクトを提案しました。また、バス通りに面した他の店舗にも声をかけ、誰でも坐れるベンチを設けて止まり木を増やしていくこと、ベンチ製作は地元の美術大学の学生に協力を呼び掛けること、なども構想しました」

ベンチに座る人々のイラスト

プレゼンで使用した簡易イメージ資料

しかし、プレゼンは残念ながら通らずだった。

「このマンションの設計者である内井昭蔵氏のコンセプト“環境調整装置”の原点に還ることを目指したのですが、準備期間がやや短かったかなと。でも、このマンションの住人、テナントの皆さんと一緒に新しいことを創出する作業は楽しかった。また何か機会があれば挑戦する、かもしれません」(田原さん)

桜台ビレジを設計した内井昭蔵の想い

桜台ビレジの設計者・内井昭蔵氏の想いが書かれた資料

毎年見事に咲き誇る中庭の桜が発端となって、地域のコミュニティセンターの役割を担い、さらには近隣を巻き込んだまちづくりの拠点へ。集合住宅の枠を超える桜台ビレジで、次に何が起きるのか楽しみだ。

構成・取材・文/保倉勝巳 撮影/浜田啓子

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